世代を超えた魂の交感。老成とは何か?
Joe Lovano(ジョー・ロヴァーノ) / Paramount Quartet

73歳を迎えたロバーノは、この作品の制作にどのような心境で臨んだのだろうか?ベースのデブリアーノが71歳、ドラムのカルホーンが62歳と、長いキャリアを重ねてきた同世代のリズムセクションに、38歳のラージという三回り若い世代が加わる。その組み合わせから生まれる化学反応への期待はもちろんある。しかし、還暦を過ぎた今の自分には、むしろロバーノ自身の内面に強く関心が向かう。そこには、同時代を歩んできた仲間たちとの邂逅と、新しい世代の感性に触れ続けたいという尽きることない欲望の、二つのベクトルが共存しているように思える。ノスタルジーとスリル。歩んできた道のりを慈しみながらも未知へと手を伸ばす姿勢。その両者がせめぎ合うところに、老成した表現者にしか到達できない境地が宿るのではないだろうか。
【本作の聴きどころ:3つのポイント】
- 偶然の出会いがもたらした「極太のグルーヴ」
- ジュリアン・ラージによる「透明でアンビエントな色付け」
- アルバムタイトル「Paramount(最高峰)」に込めた決意
もっと詳しく読みたい方はこちらから
偶然の出会いがもたらした極太のグルーヴ
このカルテットの特筆すべき点は、その圧倒的なリズムの「重さ」にある。2023年にプエルトリコ・ハリケーン救済のチャリティ会場で、ロヴァーノはサンティ・デブリアーノ、ウィル・カルホーンと遭遇した。言葉を交わした瞬間に「すでに会話の底流に何かが流れている」と直感したという。アーチー・シェップやファラオ・サンダースら、フリーやスピリチュアル・ジャズの闘将たちと渡り合ってきたこの二人が叩き出すリズムは、極めて理知的だ。しかし、そこには決して隠しきれない泥臭いブルーズと、大地に根を張るような強靭な重力が脈打っている。
アンビエントな広がりと、世代を超えた対話
この土着的な重厚さの上で、38歳のジュリアン・ラージのギターは驚くほど自由だ。コンテンポラリーな洗練を保ちながら、時にアンビエント・ミュージックのような静謐な空間の広がりを持って、ロヴァーノの煙るようなテナーを包み込む。ロヴァーノは「私が素材を持ち込んだが、全員が対等な重みで貢献し、音楽の中に音楽を創り出している」と明言している。10代の頃にロヴァーノの楽屋を訪ねたというラージとの約20年越しの縁が、ここにきて「完全な必然」として実を結んだのだ。
「Paramount(最高峰)」に込めた決意
ロヴァーノ自身がプレスリリースで「自分は今、上昇気流に乗っていると感じている。このカルテットで非常にユニークで特別な場所に到達した」と語っている。本作は一過性のスタジオ・セッションではなく、現在ヨーロッパのフェスティバルを回っている「最前線のライブ・バンド」の記録である。過去の遺産に寄りかかることなく、最先端の感性と火花を散らしながらジャズの新たな地平を切り拓こうとする姿勢が、この音の端々から伝わってくる。
おわりに
積み重ねられた歴史の重みと、恐れを知らぬ若き知性。この二つが遠慮なくぶつかり合う『Paramount Quartet』は、ジャズという音楽がいかにして自己刷新を続けるかを示す生々しいドキュメントだ。老いてなお未知の領域へ踏み出そうとするロヴァーノの決意表明は、聴く者の心に深い余韻と、音楽の尽きせぬ可能性を刻み込んでくれるはずである。
アルバム情報
- パーソネル:
- Joe Lovano (ts, G mezzo soprano, tarogato)
- Julian Lage (g)
- Asante Santi Debriano (b)
- Will Calhoun (ds)
- 録音・リリース: 2026年5月29日リリース
- レーベル: ECM Records
- 主な収録曲:
- First Song (Charlie Haden)
- Lady Day (Wayne Shorter)
- Fanfare for Unity
- Amsterdam ほか全編
関連動画
Joe Lovano – Paramount Quartet
