Monthly Playlist 2026.10
嘆きのロリンズ RCA時代の孤独と影
復帰後の咆哮に潜む、インプロバイザーの孤独
学生時代、京都三条河原町にあったジャズ喫茶「ビックボーイ」でアルバイトをしていた。そのマスターが、ロリンズのRCA時代の未発表作品を集めた「アフター・ザ・ブリッジ(名前は正確ではないかも)」というコンビレーションアルバムを購入した際に、つぶやいた言葉が、「失敗した。買って損した・・・・」であった。今でも鮮明に覚えている。
サックスの巨人としてのロリンズ像を信奉するマスターとって、ある意味、散漫でとりとめのない、中途半端な曲の寄せ集めのような仕上がりが許せなかったのであろう。でもロリンズをマスター以上に愛していると自負する僕にとって、反抗心からかもしれないが、この復帰後のRCA時代の残骸のような作品集に詰め込まれた、泣きむせぶような咆哮にこそ強く惹かれてしまったのである。そして、共演者など全く意識せず、自分のサックスを感情の赴くままに、つらつらと奏で連ねるロリンズの心境が当時どういう状態であったのかを慮ると、いつも僕は泣いてしまうのである。ジム・ホールやハンコックといった名手による控えめなツボを得たサポートも相まって、インプロバイザーとしての孤独と影が一層濃く、心に迫ってくるのである。
1. Trav’lin’ Light / The Standard Sonny Rollins / 1964年
ビリー・ホリデイの愛唱曲としても知られるこの曲。ジム・ホールの繊細なギターを背に、ロリンズのサックスがまるで一人語りをするかのように切々とメロディを紡ぎます。その音色には、復帰後の彼が抱えていた言葉にならない哀愁が漂っています。
2. Afternoon in Paris / Now’s The Time! / 1964年
ジョン・ルイス作の小粋なスタンダードですが、ここでのロリンズはどこか陰りを帯びたアプローチを見せます。ハービー・ハンコックの知的なピアノが適度な距離感を保ちながら寄り添い、ロリンズの特異なフレージングと孤独感を際立たせています。
3. God Bless the Child / The Bridge / 1962年
「橋」での隠遁生活から復帰した第一作に収録された名演。コードレスの編成に近い中で、ジム・ホールとの濃密なインタープレイが展開されます。ビリー・ホリデイの祈りのようなメロディを、ロリンズが自らの魂の叫びとして昇華させている瞬間に心が震えます。
4. My Ship / The Standard Sonny Rollins / 1964年
クルト・ヴァイル作曲の美しいバラード。ロリンズは原曲の持つ幻想的な和声感を漂いながら、時にフリーキーなトーンを交えてメロディを解体していきます。自分の拠り所(船)を探し求めるような、痛切なインプロビゼーションが心に迫ります。
5. Winter Wonderland / The Complete RCA Victor Recordings / 1964年
誰もが知るクリスマス・ソングですが、彼の手にかかると単なる陽気な曲では終わりません。どこか冷たい冬の情景の中で一人立ち尽くしているかのような、得も言われぬ寂寥感とアイロニーが混じり合った独特のテイクです。
6. My One and Only Love / The Standard Sonny Rollins / 1964年
数多くのミュージシャンに愛される極上のラブソング。ここでのロリンズは、感情の赴くままにメロディを歌い上げ、時に音をかすれさせながら泣きむせびます。彼の内面にある優しさと、それに相反する葛藤が同居した、RCA時代を象徴するような孤独な名演です。
厳選!YouTube:空へ溶け込む現代ジャズの響き〜エマニュエル・マイケル〜
Emmanuel Michael Group “Live at Duck Creek”
今、僕が最も注目している若手ギタリストの一人、エマニュエル・マイケル(Emmanuel Michael)のライブ映像をご紹介したい。
映像を一目見て惹きつけられるのは、その素晴らしいロケーション。舞台はニューヨーク州郊外にある「The Arts Center at Duck Creek」。かつてジャクソン・ポロックなど抽象表現主義の画家たちが集ったという歴史的なアートコロニーの納屋を背に、観客が芝生で思い思いにくつろぎながら音楽に身を委ねている。こんなところで演奏でたら!
そして何より、このオープンエアの会場の空に溶け込んでいくようなエマニュエルのギターサウンドが、本当に素敵なのである。特筆すべきは、ティム・ワトソンとのダブルギター編成が生み出す音の広がりだ。二人の音色が幾重にも溶け合うことで、現代ジャズならではのアンビエントな浮遊感がより一層強調されている。そこにジェイラ・チー(Bass)とイライザ・セーレム(Drums)というNY気鋭の若手リズムセクションが加わり、音の隙間を繊細に生かした極上のインタープレイを展開していく。
ハービー・ハンコック・インスティテュート出身という確かな技術の土台の上に、ビル・フリゼールやマイク・モレノらにも通じる、深くリッチで空間的な音色を描き出すエマニュエル。風の揺らぎや自然の空気感すらも音楽の一部として取り込んでしまう彼らの演奏は、音の余白や空間の響きを大切にする一人の音楽家として、至福のインスピレーションを与えてくれる。ぜひ、このカルテットが紡ぎ出す極上のサウンドスケープを体感してほしい。
