確信と迷いが同居する「天上のしあわせ」——ンデゲオチェロの新作
Meshell Ndegeocello / ミシェル・ンデゲオチェロ

やはりよい。ンデゲオチェロは期待を裏切らない。
天上にいるような気分にさせてくれる。最初のベース音から、幸せな気分に溢れている。
自信・ためらい、確かさ・儚さ、流麗・澱み、希望・哀しみ、陶酔・覚醒、慎ましさ・大胆さ、滑らか・ざらつき、余白・密度、端正・崩れ、洗練・不器用、反復・変容、、、、、、、。
素晴らしく優れた音楽とは、「確信と迷いが同じ音に宿る」ように、確かなものとフラジャイルなものが同居している感覚がある。危ういけど確かなもの。手練れのアーティストとか経験の少ないアーティストといったことは関係ない。出来あがったアルバムにこそ、しっかり宿っているのである。
このアルバムの軽さと重さを、ぜひ多くの人に感じてほしい。天上にいる気分だ!
タイトル『Synonym』に込められた普遍性とグルーヴ
本作のタイトルについて、ミシェル本人は「私たちはそれぞれ違う存在だけど、人間という存在の本質は同じ(=同義語)」と語っている。チャカ・カーンからキャット・パワーまで、世代もジャンルも異なる多様な才能が結集しているが、それぞれのゲストの「個性」を、彼女のベースを中心とする強靭なグルーヴがしっかりと支え、人類共通の経験という普遍的な音楽へと昇華させている。
名曲の骨格から抽出されるノスタルジー
キャット・パワーをフィーチャーしたヒューマン・リーグの「Don’t You Want Me」。
懐かしい!80年代ポップスの解体と再構築の手腕には舌を巻く。「曲というのは、あくまで骨組みにすぎない」という彼女の言葉通り、原曲の煌びやかさを削ぎ落とし、余白を活かしたアレンジが施されている気がする。過去の名曲を単になぞるのではなく、ポップスが本来持っている儚さや切なさの骨格だけが鮮やかに抽出されているのだ。
現代ポップスと共振する「切なさとキャッチーさ」
1曲目のシンシア・エリヴォをフィーチャーした「I Knew You Were Waiting (For Me)」に漂う「非常にポップな悲しみ」は、単なる懐古趣味にとどまらない。これは、レトロポップを現代の洗練された切なさで鳴らすサブリナ・カーペンターの近年の快進撃にも通じる感覚である。「ポップであること」と「切ない・重い」ことは決して矛盾しない。その現代的なリアリティを、ジャズやR&Bの土台から確信を持って証明してみせた点に、彼女の類まれなセンスとプロデューサーとしての腕が光っている。
おわりに
過去の名曲たちがミシェルの手によって解体され、新たな命を吹き込まれた本作。そこには、確信に満ちたリズムと、迷いを恐れないゲストボーカルたちの息遣いが確かに同居している。極めて理知的でありながら、どうしても隠すことのできないファンキーさが滲み出るこの極上のグルーヴに身を委ね、あなたも「天上にいる気分」を存分に味わってみてはいかがだろうか。
アルバム情報
- 録音年:2026年
- レーベル:Blue Note Records
- パーソネル:ミシェル・ンデゲオチェロ(b, vo)、クリス・ブルース(g)、デアントニ・パークス(ds)、ロバート・グラスパー(keys)他
- 収録曲(フィーチャリング・アーティスト):
- I Knew You Were Waiting (For Me) – feat: Cynthia Erivo
- Don’t You Want Me – feat: Cat Power
- Don’t Stop The Music – feat: Robert Glasper, Nick Hakim
- Islands In The Stream – feat: Chaka Khan
- It Ain’t Me Babe – feat: Madison Cunningham
- Always On Time – feat: Laura Lee
- Be Real Black for Me – feat: Emily King, Lizz Wright
- Don’t Look Any Further – feat: Lianne La Havas
- The Closer I Get To You – feat: Destin Conrad, Moses Sumney
- Golden Ring – feat: Brandi Carlile
- I Got You Babe – feat: ANOHNI
- Here We Come (Here He Comes) – feat: Evann McIntosh
- Guilty – feat: Ink
- Hunger Strike – feat: WILLOW
- With God on Our Side – feat: Bill Callahan, Chris Thile
