捉えきれない真髄へ:極致のサックスと泥臭いグルーヴが交錯する野心作

Chris Potter / クリス・ポッター / Alive with Ghosts Today

先日、YouTubeのエメット・コーエンの「Open Studio」チャンネルで配信されたジョン・パティトゥッチとジョナサン・ブレイクとのセッションを観て、クリス・ポッターというサックス奏者の懐の深さと「融通無碍」なあまりにも素晴らしいプレイに改めて魅了された。彼は間違いなく現代ジャズ界最高のインプロバイザーの一人だ。
しかしその一方で、これまで個人的には、彼のサックスはある意味で完璧すぎて味気なく、音色もどこか軽い感じがして好みでないと感じてきたのだが、ある意味、マイケル・ブレッカーとの比較において聴いてしまう一面があったのも事実だ。だが、彼がいち早く到達した「インプロヴィゼーションの極致」の背景にある彼自身の哲学を今回、初めて知り、その評価は根底から覆った。
アメリカの重い歴史を題材にした最新作『Alive with Ghosts Today』は、変則的な編成と泥臭いグルーヴを纏いながら、彼がさらなる高みへ挑んだコンセプチュアルな野心作である。本作を通じて、捉えきれないクリス・ポッターという存在の真髄に迫ってみたい。

「インプロヴィゼーションの極致」と最新作が提示する新たな方向性

  • ポッター自身が語る「インプロヴィゼーションの極致」に至る3つの演奏哲学。
  • アメリカの奴隷制廃止論者を題材とし、過去と現在を繋ぐコンセプチュアルな組曲。
  • 変則的な7人編成とアメリカーナの融合、そして鉄壁のリズム隊がもたらす泥臭いグルーヴ。

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「インプロヴィゼーションの極致」に至る3つの哲学

完璧すぎて真っ当にすら聴こえるポッターのサックスだが、その背景には凄まじく理知的なアプローチが存在する。彼がいち早く「極致」に到達できた理由は、本人の言葉から読み取れる以下の3つの哲学に集約される。

第一に「ピアノによる和声の解体」である。彼は「スタンダードをピアノで弾き、声部に細心の注意を払いながら和音を解体・再構築する。そうすることで、サックスを持った時に探している音がすでに明確に聴こえるようになる」と語っている。

第二に「過剰に学び、手放す」ことだ。「極限まで学び尽くした上で、それをすべて使わないセンスが重要」とし、「演奏中に『どうアプローチするか』を考えている時点で、表現の邪魔になっている」と断言している。

そして第三に「無私のゾーン」への到達である。「良い音を出そうという目標すら手放し、音を生み出す喜びや興奮だけに集中する」。圧倒的な技術的鍛錬を経た上で意図を完全に手放すこと。この境地こそが、複雑な変拍子や和声の中でも彼があれほどまでに軽やかで「融通無碍」に振る舞える最大の源泉であると語っているのである!

新作の方向性と魅力:歴史の重みと泥臭いグルーヴの交錯

こうした極致の哲学を持つポッターが本作で挑んだのは、奴隷制廃止論者ジョン・ブラウンを題材としたアメリカの重い歴史(過去の亡霊)との対峙である。自身の完璧なプレイだけでは補いきれない「泥臭さ」を表現するため、ビル・フリゼールのアーシーなギターや弦・管楽器を交えた変則的な7人編成を採用し、アメリカーナの叙情を見事に融合させた。

さらに特筆すべきは、バーニス・トラヴィス(b)とネイト・スミス(ds)による鉄壁のリズム隊である。トラヴィスの深く重いポケットと、スミスのソリッドなドラミングが生み出す推進力が、知的なアンサンブルに隠しきれないファンキーさとブルージーな脈動を与えている。ポッターの限りなく軽やかなサックスが、この泥臭いビートという「摩擦」に出会うことで、本作は唯一無二の魅力を放っている。

おわりに

圧倒的な技術を完全に血肉化し、演奏上の自我すらも手放した先で鳴らされるポッターのサックス。本作は、現代ジャズ界最高のインプロバイザーが、あえてコンセプチュアルな歴史的テーマと泥臭いビートに挑むことで生まれた極めて挑戦的なドキュメントである。現代ジャズの最前線で鳴らされる、この知性と野性の鮮やかな交錯を、ぜひ自身の耳で確かめてほしい。

アルバム情報

  • 録音・リリース: 2026年5月8日リリース
  • レーベル: Edition Records
  • パーソネル:
    • クリス・ポッター (ts, ss)
    • ビル・フリゼール (g)
    • バーニス・トラヴィス (b)
    • ネイト・スミス (ds)
    • サラ・カスウェル (vn)
    • レイン・ムーア (cl)
    • ゼカライヤ・エル=マガーベル (tb)
  • 収録曲:
    1. Alive with Ghosts Today
    2. Harpers Ferry
    3. Osawatomie Brown
    4. The Abolitionist
    5. Into Africa
    6. Americana Dreams
    7. Shadows of the Past
    8. Liberation

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Osawatomie Brown

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