バド・パウエルは本当に凄いのか?

Bud Powell  バド・パウエル The Bud Powell Trio (Roost Session)

学生時代、軽音楽部に在籍していたが
入部者の中に、同学年で既に
プロと一緒に演奏活動していた
ピアニスト田中裕士がいた

ピアノの腕前もさることながら
存在が放つオーラも、周りにいる学生たちとは
一線を画していた
入部早々に部室で目の当たりにした
先輩ミュージシャンとのピアノトリオ演奏は
なにか有名なジャズクラブに来ているかのような
大人な感覚に包まれていた

そんな彼が、なぜか入部したての私にいろいろと
ジャズの手ほどきをしてくれたことを
今でもよく思い出す
彼には、当時京都三条河原町にあった
ジャズ喫茶「ビックボーイ」にも連れて行ってもらい
そこでのアルバイトを紹介してもらったり
ジャズに関するいろんな話もしてくれた

まだろくにジャズなど弾けない田舎者に
あっけらかんと気安く語りかけてくれたのは
私がジャズが好きでたまらないという感じが
伝わったからであろうか?

その中で彼が、最も強い口調で訴えたのが
「やっぱりバド・パウエルだよ。とにかく聴けよ」
という言葉だった。
彼の言葉に触発されて買ったのが
このルースト盤である。

ビル・エバンスやチックコリアあたりから
聴き始めた、当時の自分としては
バド・パウエルの演奏は、随分古めかしく聴こえた
バドの演奏を評して、いつも形容されるのは
「ジーニアス=天才」「神かがり」であり
当時の私にとっては、そんなに凄いのかなあ
と思うくらいで、チック・コリアやエヴァンスらの
演奏の方がずっと洗練されていて凄いのに
と思ったのが正直な感想であった

今でこそ、バドの凄さ、革新性が
少しは理解できるので、聴き方も分析的になり
確かにモダンジャズピアノの即興のポテンシャルを
大きく飛躍させたということがよくわかるのだが
当時は、「右手がよく動く達者なピアニスト」
くらいの印象しかなかったのである

これは、客観的に考えると当然かもしれない
どうしても時代を遡ってジャズを聴き探っていく
傾向にある、若いリスナーにとって
源流に近い演奏は、その後の発展系の演奏より
物足りなく感じてしまうのは
致し方ないのかもしれない

あのビル・エヴァンスが
「芸術面での完璧さ、唯一無二の創造性、生み出した作品の偉大さといった点をふまえてミュージシャンをひとりだけ選べと言われたら、私はバド・パウエルを選ぶ。彼はずば抜けた存在だ」と述べ
また、レニー・トリスターノは
「パウエルは、ピアノをただのピアノ以上のものにした。バド・パウエルの偉大さは、誰にも、どんな言葉を用いても説明しきれない」
と述べている。

同時代を生きたプロミュージシャンの言質は重い
しかし改めて考えると、時代を遡ると言っても
せいぜい10年くらいのタームなのである
その間に、ジャズのスタイルが急激に
発展していったことに改めて興味を持った

そこで、このアルバムの録音なされた
1947年という年が同時代のアーティストにとって
どのような時代であったかを分析してみたいと思う

その前に、まずはこの年には
既に青年期を迎えている、あるいは過ぎている
ジャズジャイアンツを生年月日順に並べてみると

1910年代後半

    エラ・フィッツジェラルド :1917年4月25日
 セロニアス・モンク :1917年10月10日
 ディジー・ガレスピー :1917年10月21日
 ナット・キング・コール :1919年3月17日
 アート・ブレイキー :1919年10月11日

1920年代前半

    チャーリー・パーカー :1920年8月29日
 チャールズ・ミンガス :1922年4月22日
 デクスター・ゴードン :1923年2月27日
 マックス・ローチ :1924年1月10日
 サラ・ヴォーン :1924年3月27日
 バド・パウエル :1924年9月27日

1920年代後半

    オスカー・ピーターソン :1925年8月15日
 マイルス・デイヴィス :1926年5月26日
 ジョン・コルトレーン :1926年9月23日
 スタン・ゲッツ :1927年2月2日
 ジェリー・マリガン :1927年4月6日
 エリック・ドルフィー :1928年6月20日
 キャノンボール・アダレイ :1928年9月15日
 ビル・エヴァンス :1929年8月16日
 チェット・ベイカー :1929年12月23日

1930年

    オーネット・コールマン :1930年3月9日
 ソニー・ロリンズ :1930年9月7日
 クリフォード・ブラウン :1930年10月30日

となる。こうやって整理すると、バドは
エヴァンスより5歳年上なだけで
マイルスやコルトレーンとも2歳しか違わない
ほぼ同世代なのである

1947年の時、バドは23歳
エヴァンスは18歳なのである
そのエヴァンスが、バドを評して「すば抜けた存在」
と熱く語っていることを考えると
やはり、バドの演奏というのは
若きエヴァンスにとって、いかに刺激的かつ斬新で
同時代のジャズピアニストとは
一線を画していたことが
ほぼ間違いのないことだったのであろう

1歳年下のオスカーピーターソンの
1940年代後半の演奏を聴いてみたが
確かに、まだまだ前時代的であり
アートテイタム的である

それでは、何が斬新で革新的であったのかを整理する

◯奏法の特徴と革新性:ピアノを「ホーン楽器」に変えた男

バド・パウエルの最大の革新性は、「チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーが管楽器でやっていたビバップの複雑なフレーズを、そのままピアノの右手に移植した」という点に尽きる

・右手:圧倒的なホーン・ライク・フレーズ
    それまでのスウィング期のピアニスト(アート・テイタムやテディ・ウィルソンなど)は、アルペジオや装飾音符を多用したピアニスティックで優雅なアプローチが主流。しかしパウエルは、管楽器奏者のように息継ぎ(ブレス)を感じさせるようなアーティキュレーションで、クロマチック(半音階)を多用した高速かつ複雑な単音フレーズを右手で弾き切った

・左手:ストライドからの脱却とコンピングの確立
    右手の自由度とスピードを極限まで高めるため、パウエルは左手の役割を劇的に変えました。ベース音とコードを交互に弾く従来の「ストライド奏法」を捨て、ルートと7度、あるいはルートと3度だけといった「シェル・ヴォイシング(音を省略した和音)」を、不規則なシンコペーションで合いの手のように弾くスタイルを確立した

・トリオ・フォーマットの近代化
    左手がリズム・キープの呪縛から解放されたことで、ビートを刻む役割はベーシストに、より自由なリズムのアクセント付けはドラマーに委ねられました。これにより、今日の「ピアノ・ベース・ドラム」が対等にインタープレイを展開するモダン・ジャズ・ピアノ・トリオの雛形が完成した。

1947年頃は
チャーリー・パーカーの絶頂期でもあり
バドはそのビ・バップという新たな潮流を
いち早く掴み取り、革新的なスタイルを確立した
モダンジャズピアノの開祖として
やはり、崇め奉るべき、本当に凄い
ジャズ・ジャイアンツなのである

side 1 (A) – Bud Powell Trio (Roost RLP-401)
01. I’ll Remember April (Gene de Paul, Patricia Johnston, Don Raye)  2:52
02. Indiana (James Hanley, Ballard MacDonald)  2:44
03. Somebody Loves Me (George Gershwin, Ballard MacDonald, B. G. De Sylva)  2:56
04. I Should Care (Axel Stordahl, Paul Weston, Sammy Cahn)  3:00
05. Bud’s Bubble (Bud Powell)  2:34
06. Off Minor (Thelonious Monk)  2:21
07. Nice Work If You Can Get It (George Gershwin, Ira Gershwin)  2:17
08. Everything Happens to Me (Matt Dennis, Tom Adair)  2:39

 

side 2 (B) – Bud Powell Trio Vol. 2 (Roost RLP-412)
09. Embraceable You (George Gershwin, Ira Gershwin)  2:48
10. Burt Covers Bud (Bud Powell)  3:05
11. My Heart Stood Still (Richard Rodgers, Lorenz Hart)  3:15
12. You’d Be So Nice to Come Home To (Cole Porter)  2:38
13. Bags’ Groove (Milt Jackson)  2:12
14. My Devotion (Roc Hillman, Johnny Napton)  3:05
15. Stella by Starlight (Victor Young)  2:08
16. Woody’n You (Dizzy Gillespie)  3:00

#01-08 January 10, 1947 in NYC. [Bud Powell Trio (Roost RLP-401)]
Bud Powell (p) Curly Russell (b) Max Roach (ds) 

#09-16 September 1953 in NYC. [Bud Powell Trio Vol. 2 (Roost RLP-412)]
Bud Powell (p) George Duvivier (b) Art Taylor (ds) 


www.youtube.com

 

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