Monthly Playlist 2026.9

渋いピアノトリオ

知る人ぞ知る、至高のテクニックと美意識を秘めた名手たち

ジャズピアノの世界には、驚異的なテクニックと独自のセンスを持ち合わせながらも、なぜか一般的な認知度がそれほど高くない「知る人ぞ知る」名手たちが存在します。彼らの演奏は、決して派手に技巧をひけらかすことはありません。むしろ、洗練されたハーモニーの選択、絶妙な間の取り方、そして一音一音に込められた深い美意識によって、聴くほどに味わいが増す「渋さ」を持っています。

今回は、最高のテクニックとセンスを内に秘めつつ、独自の深淵を描き出すピアニストたちに今一度フォーカスを当て、その魅力に迫ります。玄人好みのミュージシャンズ・ミュージシャンたちが紡ぎ出す、奥深い世界をご堪能ください。


1. Glenn Zaleski / Central Park West / Fellowship / 2017年

個人的に一番嵌っているピアニスト。現代のニューヨーク・ジャズシーンにおいて、極めて知的なアプローチを見せるピアニストの一人。コルトレーンの名バラードを、重層的で洗練された和音(ヴォイシング)で再構築しています。抑制の効いたタッチの奥に潜む、確かなテクニックと構築美が光る1曲です。

2. Jeff Gardner / Opal Mist / Lovelight / 2008年

この人も独特のフィールを備え孤高な雰囲気が漂う。幅広いジャンルに造詣が深い彼ならではの、色彩豊かなハーモニーセンスが魅力です。決して声を荒げることなく、独自のタイム感と美しい音色で静かに物語を紡いでいくようなプレイは、まさに熟練のいぶし銀の輝きを放っています。

3. Alan Pasqua / The Folks / New Hope / 2025年

アラン・ホールズワースらとの共演でも有名な、アラン・パスカを好きなマニアは結構多い。長年第一線で活躍してきたベテラン。この近作では、無駄な音を極限まで削ぎ落とし、ピアノの持つ響きそのものと「間」の美学を追求しています。経験を重ねたからこそ到達できる、深いリリシズムと精神性が宿る、非常にパーソナルで渋い演奏です。

4. Henrik Gunde, Jesper Bodilsen, Morten Lund / Blame It on My Youth / Moods / 2022年

北欧デンマークの精鋭トリオによる、透明感とスウィング感が同居した名演。スタンダード・ナンバーに対し、奇をてらわず真っ直ぐに向き合いながらも、リズムセクションとの緊密で温かみのあるインタープレイによって、楽曲の深い奥行きを引き出しています。

5. Aaron Goldberg / The Wind In The Night / The Now / 2014年

圧倒的なスウィング感と非の打ち所のないテクニックを持ちながらも、それを過剰にアピールしない絶妙なバランス感覚を持つピアニスト。流麗なフレージングの中にも、時折ダークで深みのあるトーンが顔を覗かせ、じわじわと聴く者を惹き込みます。

6. Joel Weiskopf / First Love / Change In My Life / 2002年

ジョン・パティトゥッチ、ブライアン・ブレイドという現代最高峰の強力なリズム隊を迎えながらも、自身の内省的でエレガントな世界観を見事に保ち続けている名演。スリリングでありながらも決して力技にならず、トリオ全体が高度に溶け合う極上のアンサンブルです。

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ART FARMER & JIM HALL “Sometime Ago”

1964年1月のRalph J. Gleasonの番組「Jazz Casual」での、アート・ファーマー、ジム・ホール、スティーヴ・スワロウ、ウォルター・パーキンスによるパフォーマンス映像。この4人が単なる「フロントマン+伴奏」ではなく、対等な会話者として音楽を作っていたことを裏付ける映像。お互いへのリスペクト無くして生まれえぬ対話。ファーマー、ホール、スワロウ自身の言葉を参考までにご紹介しておきます。
アート・ファーマー(Jazz Casual、1964年1月)
Gleasonとの対話で、なぜピアノレス編成にしたのかを問われ、ファーマーはこう答えています。「ジム・ホールほどの実力を持つギタリストがいれば、ピアノは本当に必要ない。ジムと対等に、しかも表面的にならずに演奏できるピアニストはほんの一握りしかいない」

ジム・ホール(2011年、Marc Myersによる電話インタビュー/JazzWax)
グループ結成の経緯とファーマーへの敬意を、ホール自身がこう振り返っています。バンド結成当初のベーシストはロン・カーターだったが、マイルス・デイヴィスに引き抜かれてしまい、そこでスワロウが加入したこと。そしてファーマーの音楽性について、その旋律の美しさと思慮深さを称え、ビル・エヴァンスと同じ種類の音楽的な真摯さ・集中力を持っていたと語り、ファーマーとの共演には「見せかけの飾りが一切なく、純粋に思慮深い喜びだった」と述べています。

スティーヴ・スワロウ(2026年4月、JazzTimesインタビュー)
このカルテットに1964年に加入したスワロウは、後年ジム・ホールの和声感覚について、ホールは優れたハーモニストであり優れた再和声化(リハーモナイズ)の名手だったが、その仕事の特徴は、原曲の本質を決して損なわない点にあったと評しています。

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